979794 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

白昼夢 p2


~ 白昼夢 ~p1

『忘れて・・・、忘れて。 今、忘れて。すぐに忘れて。
    そうでなければ、忘れられてしまう日を思って怖いから・・・。』

 
東方へと向かう列車の中で、アルフォンスは久しぶりに開放された心配事から
ホッと安堵の溜息を点いていた。
その向いの席では、落ちるスレスレの体勢で、エドワードが豪快に眠りを楽しんでいた。
その無邪気と言うか、羞恥欠如と言うかに困る姿を見つめながらも、
暫くぶりの穏かな兄の様子を喜んでいたのだった。

数ヶ月前、東方へ寄っていた兄が、朝に宿屋に戻ってくるなり出立を告げ、
アルフォンスは慌てて準備をして、旅立ったのだった。
最初の頃こそは、慌しい旅の行程に気づくのが遅れてしまったが、
よくよく考えてみれば、その頃からエドワードの様子はおかしかったのだろう。
いつになく無口に黙り込む事が多くなっていた兄の不調に気づいたのは、
それから数週間経った頃で、目の下の隈がくっきりと落ち窪む程の濃い跡を
残すようになってからだ。


「兄さん、最近夜更かしが過ぎるんじゃない?」
少し非難を込めて告げれば、思い当たる節があるのか、エドワードは表情を渋くする。
「もう! 夜はちゃんと寝てって、ずっと言ってるでしょ!
 そんなんじゃ、今日からは一緒の部屋に寝泊りして監視するよ?」
「・・・悪かったって!
 ちょっと気になる事があってさ、考え込んでたら寝るのが遅くなってただけだから」
「全く・・・」
ふぅーと大袈裟に呆れた風を装えば、エドワードも決まり悪そうに作り笑いを浮かべて返してきた。
兄、エドワードのそんな生活態度も、今に始まった事でもなかったから、
アルフォンスにしてみれば、『また無茶をして・・・』と心の中で嘆息する位だったのだ。

だから、気づくのが更に遅れてしまった。
兄を悩ます事柄が、自分達の追い求める情報でも、難解な構築式でも、暗号でもないと言う事を。

アルフォンスの注意を受けても、エドワードの不調は一向に改善されたようには見えなく、
それどころか日増しに酷くなっている様子で、細くなる食に比例して、
元々細身だった体が、明らかに一回り小さく見えるほどに痩せてしまっている。
何度となく病院に、病院が嫌なら1度東方に戻ろうと言うアルフォンスの言葉を無視して、
頑ななまでに、情報だけを追い求めて旅を続けていく姿に、アルフォンスは漫然とした不安を
抱え続けなくてはならなかった。

そしてその旅の間で気が付いた事が、もう1つ。

「兄さん、そろそろ定期報告に戻らなくていいの?」
約束の期日はとうに過ぎている。今までは、多少の遅れはあっても、必ず戻って行っていた東方にも
エドワードは戻る様子も見せない。
「・・・いいんだよ、報告書は郵送で送ってるんだから」
むっつりとした口調でそれだけ告げると、車窓から流れる景色へと視線を向けたままだ。
「郵送って・・・。報告は直接って言う決まりだったんじゃ・・」
「良いんだって! 駄目なら連絡が来る。来ないって事は、OKだってことだろ!」
反論しようとしたアルフォンスの言葉を遮って、エドワードが声高に畳み込むように告げてくる。
兄の勢いの強さに呆気に取られたように黙り込んだアルフォンスに気づいて、
エドワードは上がった息を落ち着けるように息を吐き出し、小さな声でゴメンと呟いた。
その頃から、エドワードは東方の話をしなくなり、特に・・・大佐の名を少しでも匂わせると
不機嫌に黙り込むようになっていたから、アルフォンスは敢えて、話を持ち出すこともなくなった。

そんな不自然な旅に終止符を打つことが出来たのは、先ごろまで追っていた情報の
結果を、二人が手にしたからだ。

「アル。 今度こそ、間違いないかもしれない・・ぜ」
湧き上がる高揚感を隠せずに、エドワードは上擦った声で、そうアルフォンスに告げてくる。
「う・・ん、兄さん・・・」
兄の興奮がアルフォンスにも伝染したように、答える声も掠れてしまう。
念願の賢者の石への道がかり。
それはひょんな処から繋がっていた。
古い錬金術者のリストから、拾った情報。
まさかそれが、賢者の石への道案内になるとは、情報の有無を確認しようと
旅立った時には思いもしなかった。

が結果は、良い意味で予想を裏切る結果となった。
そして先ほど、その人物を訪れていたエドワードが、アルフォンスが久々に見る
晴れ晴れした表情で戻ってきた。

「やったぜ、アルー!
 情報は間違いなかったんだ! これで俺らは元に戻れる!」
アルフォンスに飛びつくようにして抱きついてきた兄を、半信半疑で抱きとめた。
「兄さん、それって本当に?
 情報を得たってだけじゃなくて?」
そう問いかけたアルフォンスの腕と言わず、胸といわず、エドワードは何度も、何十回も
叩きながら、興奮したように頷いて返す。
「違う! 情報じゃない!
 石だ・・・、賢者の石の場所が判ったんだ!」
「石の・・・場所?
 ほ、ほんとうに・・・・」
呆然と立ち尽くすアルフォンスに、エドワードは半泣きの状態で話してくれた。

少し前に訪ねた老人は、既にまともな話が出来る状態の相手ではなかった。
昔は、優れた錬金術師と名を馳せた事もあったらしいが、
廃れた錬金術師としての能力に、人の口の端にも乗らなくなり、
今では小さな辺鄙な田舎の片隅で、『頭のいかれた爺さん』として
村の厄介者に成り果てていたが、それでも古い資料に載っていた
『不可能を可能にする錬金術師』の言葉の文句に、1度訪れてみようかと言う事になった。

汚く粗末な小屋には、確かに昔は錬金術師だった名残の、本やら資料やら
書きなぐられた練成陣のメモ書きなどが散乱する部屋の中で、その老人は
日がな一日、ああでもないこうでもないとブツブツと己の世界へと埋没して過ごしていたようだった。
訪れた二人にも、何の関心も興味も抱かず、それどころかそこに存在していることさえ
気づこうとせずに、自分の世界に浸っている老人に、苛々を募らせたエドワードが
銀時計を見せた瞬間に、相手の様相が豹変した。

「ヒィー!! 悪魔、悪魔めー!
 な、な、何をしに来たー!」
そう叫びながら、二人から逃げるように遠ざかり、部屋の隅に蹲って威嚇してくる老人に、
二人は呆気に取られたように、互いの顔を見合わせたのだった。
「あのぉ、別に僕達、怪しい者では。
 少し、お話が聞きたいだけなんです」
相手を刺激しないように、アルフォンスは務めて穏かに優しい口調で語りかけるが、
半場、パニック状態になっている老人には伝わらなかったようだった。
「出てけ! 出て行け! この悪魔どもめ!
 もう、お前らに渡す情報なんか何一つ残っておらんわ!」
その老人が喚き散らす言葉の「情報」という二文字を、エドワードが聞き止める。
「爺さん、その情報ってのを話して欲しいんだ。
 別に、あんたに危害を加えようとか、何か盗ろうとかってんじゃない」
そう告げて、エドワードが1歩近付くと。
「よ、寄るなー!
 お、お前ら国家錬金術師は悪魔だ! 鬼だ!
 わ、私が苦労して見つけた石を奪った、あの紅い魔女め!」
そう叫ぶと、頭を抱えて泣きながら叫びまくる。
「あの魔女め! わしの半生の苦労を奪い寄ってー!
 わしの石の在りか・・・思いだせん、ああ、どうして忘れてしまったんじゃ・・・。
 あの石があれば、何でも、どんな事だって出来ると言うのに」
「不可能を可能にする・・石」
頭に浮かんできた言葉を呟いたエドワードの声に反応したように、老人は怒りの形相で
エドワードに襲い掛かってくる。
「兄さん!」
「ぐっ!」
老人とは思えない身のこなしと、締め付ける力で、老人はエドワードの襟元を掴み上げて
締め上げてくる。
「返せ!わしの記憶を返せ!
 この魔女め! 恩知らずな女だ、お前、----!」
老人が叫んだ最後の言葉は、女性の名前のようだった。
アルフォンスが慌てて老人を引き剥がし、兄を背中の後ろに回して庇う。
そして、今まで激昂していた老人は、スイッチが切れたようにストンと椅子に座り込み、
来たときと同じ姿勢で、ぶつぶつと古びた資料や、メモを読み始めた。
「・・・行こう、アル。
 もう、聞ける話は無さそうだ」
締め上げられた喉元に手をやりながら、幾分掠れた声でエドワードがそう告げると、
二人してその小屋から去っていった。

その後、行く先をセントラルに決めたエドワードは、最短でセントラルへと入り、
数日間を、国家錬金術師機関の資料室に通い詰めた。
 
そして、情報を持っている思われる元・国家錬金術師を訪れたのが昨日。
そして今、宿でやきもきしていたアルフォンスの処へと戻ってきたのだった。
「と、兎に角、詳しく話してよ、兄さん!」
狂喜乱舞している兄を落ち着けようと、説明を求める。
「おう! それは道々に話す。
 とにかく、東方へ戻るぞ」
言うが速いか、さっさと荷造りを始めたエドワードの様子に、アルフォンスが戸惑いを見せる。
「とう・・ほうに?」
そんなアルフォンスの躊躇いに気づかないエドワードは、威勢良く返事を返してくる。
「そりゃそうだろ? 一旦は皆に報告する必要もあるし、
 もうちょっと、情報を詰めて調べておく時間もいるしな」
早くしろよと急きたてる兄に、アルフォンスもアタフタと準備をする。
最近では、東方の話もしなかった兄が、東方へ行くぞと言うには驚いたが、
確かに、情報が本物に近いなら近いほど、1度きちんと話をしに行かねばならないだろう。
二人が行おうとしている事は、失敗してやり直しが出来る事柄ではないのだ。
慎重に慎重を期して、しかも後の事も考えて動かなくてはならない。
そう考えがつくと、兄が言い出した事も当然かと納得して、アルフォンスは
逸る兄を追いかけるようにして列車へと乗り込んだ。

そして道すがらは、倹約家の二人にしては珍しくコンパートメントを借り、
得た情報の話を交わし、真偽を問あいしながらあっという間に時間は過ぎていった。


「ふぅー、無事着けたな」
駅からの道すがらも話すことには事欠かなかった。
情報のこと、これからの段取り、調べておく、用意しておくこと。
何度もシュミレーションして、抜け落ちや見落としがないかを確認しあう。
そして、まずは東方の皆に、きちんと報告しておかねばならない。
第3者の意見も聞きたいと言うのもあるし、今まで世話になりっぱなしだった人たちに
伝えておかなくてはならない事もあるからだ。
通いなれた司令部の廊下を歩いていると、「久しぶりだな」の声が
あちらこちらから二人に掛けられてくる。
それに、上機嫌で挨拶を返しながら、エドワードはいつもどおりに、乱暴に司令室のドアを開ける。
「ちはーぁ! お久しぶりでーす」
威勢の良いエドワードの登場に、中に居た顔馴染みのメンバーが
驚いたように、そして嬉しげに挨拶を返してくる。
「あら、えらくご無沙汰だったわね、二人とも」
少しだけ咎める口調でそう返してくるホークアイの表情が、安堵に満ちていて
言葉を裏切っている。
「うん、ごめんな・・・連絡もしてなくて」
アルフォンス共々、殊勝に頭を下げながらそう伝えると、彼女の表情が柔らかさを増す。
「おう、元気してたようだな!
 しかし大将、ちょっと見ない間に、また更に縮んだんじゃないのか?」
「少尉ー!」
ガァーと噛み付くようなエドワードの反応に、ハボックがサッと机の陰に避難する。
「・・・・ったく。
 まぁ、今日は許してやるけど」
普段なら絶対に有り得ないエドワードの反応に、物陰に隠れて様子を窺っていたハボックも、
見守っていた周囲のメンバーも、おやっ?と首を傾げる。
その雰囲気の中でも、兄弟二人は顔を見合わせては嬉しそうな表情を崩さない。
「二人とも、よっぽど良い事があったのね?
 凄く嬉しそうよ」
二人の様子から察したホークアイがそう声をかけると、二人は同時に頷いて、
決心したようにエドワードが顔を上げて話し出す。
「実は・・・石の情報があったんだ」
「本当か」
エドワードのその言葉に、周りを囲むメンバーも詰め寄ってくる。
「うん。多分、今度は間違いないと思う。
 で、暫く調べ直したりしてから、取り掛かろうと思うから・・・」
「僕達、先に皆さんに報告したくて」
思いが募って言葉を途切らせたエドワードに代わって、アルフォンスが後を告げる。
「マジかよ・・・」
「じゃあ、いよいよ・・」
兄弟の緊張が伝わり、メンバー達も柄になく殊勝な面持ちを見せる。
「うん・・・。
 本当に今までありがとう。皆が協力してくれなきゃ、俺らはここまで」
そう語りかけ始めたエドワードを、ホークアイが慌てて止める。
「エドワード君、そう言うことは、まずは大佐に伝えて上げて頂戴。
 あなた達が姿を見せなくなってから、言葉にはされなかったけど、
 ずっと気にしておられたんだもの」
その彼女の言葉に、アルフォンスは盛大に頷き、エドワードはと言うと、
困ったような表情でホークアイを見返してくる。
「そうですよね! 大佐には、本当に良くして頂きました。
 ちゃんと、お礼もお伝えしたいし」
「?」
そう話すアルフォンスを、エドワードが不思議そうな表情で見上げる。
「エドワード君、どうかしたの?」
エドワードの奇妙な反応に、ホークアイが訊ねてくる。
「えっ・・? いや、俺はどうもしないけど・・・」
口篭って黙り込むエドワードの表情は、照れ隠しと言うよりは、
困惑に近い色が現われている。
「兄さん、大佐と喧嘩でもしてるのかも知れないけど、
 今日くらいは忘れて、ちゃんとご挨拶するべきだろ」
諭すように言ってくるアルフォンスに、エドワードが少し驚いたように目を瞠る。
そして、暫しの時間躊躇いを見せていたかと思うと、漸く言葉を返してきた。
「で、でもさ・・・。
 俺らの事は軍には内緒だった筈だろ?
 それを上の人間に言うってのはさぁ」
不満そうな表情で語られた言葉に、皆は一瞬理解できずに反応が遅れる。
そんな周囲の様子も気にせず、エドワードの言葉は続いていく。
「大体、アル。 お前、いつの間に大佐とかと知り合いになったんだよ?
 俺が全然知らないってのに、変じゃない、そういうのってさ」
詰るように唇を窄めて、アルフォンスにそう告げるエドワードの表情は、
ごくごく普通の自然体の彼だ。
「に、兄さん?」
「喧嘩するとかしないとか、顔も知らない相手に出来るかって」
「にいさん!」
何を言ってるんだと言うように名を呼ばれ、エドワードが瞳を大きく瞬かせる。
「あっ何? 不躾いとかで、拙かった? 今の言い方?」
様子を窺うように、おもねる様な視線を軍のメンバーに向けていく。
「エドワード君・・・、あなた・・・」
「大将、どうしたんだよ?」
奇妙な周囲の反応に、理由も判らないエドワードはキョロキョロと視線を回す。
「ど、どうしたんだよ、皆?」
戸惑うエドワードよりも周囲の困惑は深いのか、半疑の視線をエドワードに向けてくる。
「兄さん・・・終いには怒るよ?
 そりゃ、以前出るときに何か揉めたんだろうとは思ってたけど、
 こんな時にまで、そんな態度に出るなんて、ちょっと性質悪すぎない?」
咎められた事で、エドワードの表情が怒りを浮かべる。
「そうだぜ、大将。
 確かに大佐の方が悪かった事だろうけど、男としていつまでも
 不貞腐れてるのもどうかと思うぜ、俺は」
ハボックにまで、そんな事を言われて、エドワードの顔がさっと怒りで紅くなる。
「少尉、それどういう意味だよ!
 アルも、アルだぜ。 性質悪いって、言いすぎだろ。
 ちょっと、先に知り合ったのかどうか知らないけど、何で俺が会っても無い奴に
 遠慮しなくちゃいけないんだよ!」
顔を真っ赤にして怒るエドワードを、皆が凝視する。
それは、彼の反応が本当かどうかを確かめてもいるように見える。
「何だってんだよ、皆。
 折角、気分よく戻ってきたって言うのに、気分悪くなるぜ」
そう言い放ちながら、エドワードは不機嫌そうに椅子にドサリと腰掛、
腕と足を組んで、踏ん反り返る。
しーんとと静まりかえる気詰まりな空間で、いち早く冷静さを取り戻したのは、
やはり切れ者と評判の彼女だった。

「エドワード君、少し質問に答えてくれる?」
穏かに掛けられた声に、それまで腹を立てていたエドワードも気勢が削がれる。
「えっ? あっ、ああ、いいけど?」
そうエドワードが答えると、彼女は椅子を引いて、エドワードの前に腰を落とす。
「エドワード君、あなたの後見人の大佐・・、ロイ・マスタングは判るわよね?」
その問に、周囲はごくりと音無く唾を飲む。
「へっ? 俺の後見人? そんなの居たっけ?
 あ、それとも国家錬金術機関の上司か誰か?」
そのエドワードの答えに、周囲の表情がサッと引き締まる。
「いいえ、違うわ。 
 あなたを、いえあなた達をリゼンブールで見つけて、国家錬金術師に推薦した人よ」
そのホークアイの言葉に、エドワードは奇妙な目で彼女を見返してくる。
「何言ってんの? 俺らを見つけてくれたのは、中尉、ホークアイ中尉じゃんか?」
「本当に? 本当に、私だけが見つけたと思ってるの?」
念を押して問われた言葉に、馬鹿にされたとでも思ったのか、
エドワードは少し不機嫌そうな表情で、ぶっきらぼうに返す。
「何だよ、それ? 俺が国家資格を取るには、大勢の人が協力しましたとか
 そういう事? で、感謝の念が足らないとかって責めてるわけ?」
その返事に、ホークアイは数瞬考え込んで、鋭い視線でエドワードを刺す。
「もう1度だけ聞くわね。
 エドワード君は、ロイ・マスタング大佐を知らないと?」
彼女の気迫に押されながらも、エドワードはしっかりと、はっきりと頷く。
「知らないけど・・・、誰、それ?」

「兄さん!」
「大将・・・」
「エドワード君!」
悲痛な声が沸き起こり、周辺が騒然とする。
そんな中で、エドワード一人が理由も判らずに、戸惑いながら周囲の人間を窺っている。

すっと音も立てずにホークアイが立ち上がり、オロオロしているメンバーに
指示をかけていく。
「兎に角、私は大佐を呼んで来ます。
 ハボック少尉、軍医にアポイントの時間を貰ってきて頂戴」
「イェッサー!」
「ファルマン准尉、フュリー曹長は、これまでの二人の形跡を洗って」
「はい!」
「ブレダ少尉は、アルフォンス君から事情を聞いておいて頂戴」
「判りました」
「はい」

皆が慌しく去っていく中、取り残されたエドワードは茫然と状況を見送っていた。
「エドワード君」
「は、はい?」
呆気に取られていた時に名を呼ばれ、エドワードは思わず飛び上がりそうになりながら
返事を返す。
「エドワード君。ロイ・マスタング大佐は、あなたをリゼンブールで見つけてから、ずっと、
 あなたの後見人、保護者として見守ってきてくれた重要な人物よ。
 そう、私達の上司と言うだけでなく、あなたにとっても、大切な人な筈なのよ・・・」
エドワードは、彼女の言葉を聞いて、途方に暮れてしまう。
彼女の告げた人物に心当たりはないが、周囲の慌てぶりを見ていると、
どうにも自分が、とんでもない失態をやらかしたのではないか? そんな気になってくるのだった。

「さぁ、隣の執務室に行きましょう。 大佐も、もう暫くしたら、会議が終わって
 戻ってくるわ」

そう告げて促されれば、今の自分の状態では頷いて従うしかないようだ。

漠然とした不安が、白い紙のに染みたインクのように刻一刻と模様を広げていくのを
エドワードは抱えた重みに耐えながら感じていた。







  ↓面白かったら、ポチッとな。
拍手



© Rakuten Group, Inc.